小隊 / 砂川 文次

  • 発売: 2021/02/12
  • 読了: 2022/04/17

読んだ理由

戦争にまつわる話が好き。自衛官の友達が多く、等身大の自衛官を書いた作品であるとの評判を目にしたため。

あらすじ

北海道侵攻してきたロシア軍と対峙する陸上自衛官の姿をリアルに描いた作品。

初級幹部の安達は小隊長として前線に配置されたが、1ヶ月続く膠着状態や満足な物資がない山での生活に辟易していた。

そしていつ戦端が開かれるとも知れない膠着状態の中、じわりじわりと戦闘の気配が近寄ってくる。

いざ戦闘が始まり、与えられた役割に心を委ねることで恐怖心を抑え込み各分隊に命令し応戦していく。しかし兵力や情報の不足により状況は絶望的。小隊も次々と死傷者を出していく。

初めての戦闘に際した緊張、不安、高揚などが一自衛官の視点で解像度高く描かれている。

感想

ここまで自衛官を現場の立場で描いた作品はそうそうないように思う。人物描写、戦闘描写で言うと村上龍の「五分後の世界」が近しいが、この作品はもっと踏み込んだところまで描いている。

ストーリーは間延びせず、読みたい描写を的確に適度な長さでまとめていて非常に読み易い。

「現代の戦争は情報戦だ」という話もあるように、情報についても記述がある。しかしポジティブなものではなく、「情報がギリギリになって伝えられる」を筆頭としたネガティブなものであった。これは二次大戦の反省がなされずそのまま同じ過ちを繰り返している旧態依然とした自衛隊トップを描こうとしているのだと思う。ただ、現実の陸上自衛隊は実際にはもう少しマシになっていると予想している。

また、現場の自衛官に伝えられる情報は全体的にぼんやりしており、戦闘という具体的な出来事が起こるまでは何も確定していない宙ぶらりんの状態である。この宙ぶらりんの不安定さ、地に足つかなさをぬかるんだ山で満足な生活ができない不快感を描くことで増幅させているように思う。

物語の終わりでまとわりつく不快感の大元である泥が川で一気にすすがれる。これによって開放感や不安定から安定への状態の変化、確定を表現している。

滔々と紅 / 志坂圭

  • 作者: 志坂圭
  • 出版: 2017/02/24
  • 読了: 2022/04/14

読んだ理由

Kindle Unlimitedで読めた。遊郭の独特な文化が好き。郭言葉とか絢爛豪華な内装とか。

あらすじ

9歳の駒乃は飢饉により吉原の扇屋という大見世に八両二分で売られる。売られた当初は痩せぎすでカトンボと揶揄されるほどであったが、翡翠(かおとり)花魁の禿(かむろ)としてしのほという名前で数年を過ごす。

12歳になり、生来の勝ち気な性格から楼主から素養を見出されたしのほは引込として囲われ読み書き・芸事習い事の稽古が付けられるようになる。その後、14歳になり名を明春(あきはる)とし新造出しを迎えた。

吉原の全焼などの事件はあるも稽古事をこなしつつ暮らし、明春は16歳になった。16歳で水揚げが行われるが、その場でも客の歯を折るという事件を起こす。水揚げ後は張見世に出るようになったのだが、客の歯を追った事件や将棋で客を打ち負かし髷を切った事件などが話題となって少しずつ客を増やしていく。

ある日、翡翠花魁に身請けの話が持ち上がる。身請けにより空いた序列を埋めるのだが、明春は先輩女郎を追い越して花魁となる。明春は花魁となったことでまた名前が代わり、二代目艶粧(たおやぎ)を襲名した。このときなつめという禿を抱えることになった。なつめは素直な性格で、地獄と呼ばれる吉原の中でも懸命に働いていた。

そんな中、藤七郎という客が登楼し艶粧がついた。この客はキリシタンであった。なつめは藤七郎からキリスト教の話を聞き、極楽に憧れを持ち信仰を持つようになった。しかしある夜、いつまでも振り続ける艶粧に怒った侍が扇屋に乗り込んできて、なつめを刺し殺してしまう。なつめは寺で供養されたものの、最期にパライソ(キリスト教の極楽)に行きたいと願っていた。この願いを叶えるため艶粧は死後もお授けができるという長崎のキリシタンに希望を持つ。

そして江戸の医者の息子である林太郎から長崎にいる医者に弟子入りする折、夫婦となり一緒に来てほしいと迫られ、足抜けしを決意し共に長崎へ向かう。このとき駒乃は23歳。無事長崎まで到着し、林太郎は医学の勉強、駒乃は畑仕事や読み書き・三味線を子供に教えながら暮らし始める。そして駒乃は死後のお授けができる長崎のキリシタンを見つけ、なつめのお授けをしてもらった。

それから子を為し親子3人で暮らしていたが、労咳によって32歳でこの世を去る。(917文字)

感想

テーマにも関わらず悲壮感、薄暗さ、陰鬱さはあまり感じなかった。むしろ粛々と流れていく時間に抗えず身を任せている様子が感じられて、「滔々と」とはそういう意味も含んでいるんだなと感じた。

足抜け未遂や姉女郎や禿の死などがあるものの、変わりそうで変わらない生活。籠の中の鳥として大きな流れに流されるまま滔々と過ごすことになる。

ただ、滔々とした中にも変化はあり、それはなつめの死によりもたらされた。死の前後で主人公駒乃の性格は変わり、なつめの死後はそれまでの勝ち気な性格は鳴りを潜め、どこか陰のある性格へと変化した。

このまま陰りを湛えたまま日々を過ごすのかと思いきや、長崎になつめの救いがあると知り、更に長崎に行く話を持ちかけられて行動に起こす。これは自分で切り拓く類の行動のようにも思えるが、よく考えると偶然に客2人から流れてきた話に乗っかって運良く目的地にたどり着けた、という様子でしかない。

主人公は現代的な考えをしがちで、これにより感情移入がしやすくなっていると思われる。確かに読みやすく、2日で読み終わった。

個人的にはもっと陰鬱な話を期待していて、籠の中の鳥が籠から逃げ出してみたらそこには少し大きな籠が広がっているだけだった、みたいな話だとか籠から逃げ出すこともできず羽も足ももがれて苦しみながら生きながらえる、みたいな話が好き。遊郭をテーマにしているにしてはドロドロした内面描写が少ないように思えた。

まあでも面白かった。

就職したので学生時代を振り返る

博士前期課程を修了し長かった学生生活が終わってようやく新入社員として働き始めました。

会社員になるまで、大学入学で東京に出てきてから結構いろいろ活動していたので、これを期にこの7年間を思い出しながら学生生活の振り返りをしようかなと思います。

1. やったこと

  • プログラム書いた
  • 研究した
  • 学会発表した
  • 休学した
  • 英語を勉強した
  • 中国語を勉強した
  • 本を読んだ
  • プレゼンをした
  • フリーランスやった

1.1 プログラム書いた

趣味実務問わずよくプログラムを書いていました。

3ヶ月以上関わったのは合計10社とかでしょうか。並行して同時に複数社でコード書きがちだったので結構ありますね。短期はいくつなのかあんまり覚えてません。一番長いのは吉田真吾さん id:yoshidashingo のいるCYDAS社の2年4ヶ月でした。長々とお世話になりました。

結構分野を問わずいろいろと動くものを作って楽しんだと思います。マジメに取り組んだのは低レイヤ(CTFとか)、Web、ロボット、機械学習の4分野でしょうか。うーん、浅く広い!本当は低レイヤが一番好きです。全然分からないけど。ハンドルネームのasmsuechanのasm部分の由来はアセンブリです。

そういえばプログラミングとの出会いは中学時代で、授業中に16進ダンプしたバイナリをプリントアウトして読んで遊んでいました。

個人ではいろいろWebアプリ作ってリリースしたりスマホアプリ作ってみたりライブラリを書いてみたりと気ままにやってました。その中でもBoostnoteのコミッターやってた時が一番楽しかったかもしれません。

1.2 研究した

修士では移動ロボットの研究をし、工学修士の学位をもらいました。ロボットと言ってもロボットのかなり上のレイヤーのソフトウェア側です。ROSというミドルウェアを使ってパッケージやらを作ります。

具体的な研究内容は複数のロボット同士の通信をうまく仲介するネットワークシステムの開発でした。スイッチとかルーターのロボット版みたいなやつ。

少し技術の細かい話をすると、こいつはOSSで公開されていて全部以下のオーガナイゼーションにいます。具体的な技術だとTypeScriptとSocket.IOでサーバー側書いてTerraform管理されたFargateにリリースし、PythonとROSでロボット側を作り、PythonとかTypeScriptとかKotlinでSDKを作りました。ロゴも作った。

この研究では学会で賞取ったりSaaS版リリースしてみたりと、割と熱中して開発してました。研究室内では後輩たちがしばらくこのシステムをこすり続けてくれるみたいです。なんなら私はまだ次の学会の共著に入っているので最近も後輩の研究を手伝っています。

研究していく中で得られたものは技術的なものよりも「批判的思考力」「ペラペラ喋る力」「考えを文章にまとめて伝える力」が大きかったです。おかげでだいぶ地に足ついて物事に取り組めるようになりました。これらはだいたい指導教員との雑談の中で身につけました。正直研究分野の細かい話よりもよっぽど重要なものを身につけることができたと思っています。

研究室活動の一環でいろいろものを作って自由にやらせてもらってすごく楽しかったです。

qiita.com

moriokalab.com

3年間いた自席。スマホCLANNADをモニターに映してやってる時の画像しかなかった。智代アフターもやりました。クドわふたー楽しみ。

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1.3 学会発表した

発表5回(うち査読付き国際会議2本)、査読落ち2回。回数の問題ではないのですが、ロボット工学の分野では修士の期間で5回だと平均かちょっと多いくらいかでしょうか。毎回自分の頭の悪さに辟易しながら論文を書いていました。

あと後輩くんたちの共著を3-4本した気がします。いろいろ手伝っていたので数えていません。

査読なし国内学会ですが賞を貰ったのはいい思い出です。

moriokalab.com

1.4 休学した

休学してアメリカでしばらく活動していました。帰国後はしばらく福岡の実家に引きこもっていたのですが、この時期は自分を見つめ直すいい時期だったと思います。この時期にふと「大学院へ進学しよう」と思い立ちました。引きこもり期間中はアメリカ就活失敗の悔しさをバネに英語やコンピューターサイエンスの勉強をずっとしていました。院試対策もしてたので人生で一番勉強した時期だと思います。楽しかった。

asmsuechan.hatenablog.com

1.5 英語を勉強した

全然大したこと無いレベルなのですが英語の勉強を継続的にしていました。TOEFLは90点。うーん100点欲しかった。

ちゃんと英語を使う機会がないとある程度で限界が来ますね。またどこかで海外チャレンジをしたいです。

1.6 中国語を勉強した

まずは英語だろ!というのは置いておいて中国語も結構勉強しました。喋るのは好きです。中国人が周りに多くて環境はとてもよかったです。HSKの5級を持っています。この前6級を受けました。点数はまだ分かりません。発音が良いみたいで色んな中国人に驚かれる。嬉しい。

1.7 本を読んだ

新旧洋邦古今東西いろんな本を読みました。

1.8 プレゼンをした

過去の資料やconnpass等でざっくり数えると、LTなどの軽いものから学会発表などの重いものまで合計80回くらいプレゼン発表をしたみたいです。だいぶ喋るスキルは身についたと思います。ペラペラ喋ります。

1.9 フリーランスをした

個人事業主(フリーランス)としてプログラムを書く仕事をしました。学生のうちにやっといて良かったと思っています。たぶんもうやりません。

2. 学年ごとのサマリー

思い出しながら書きます。

2.1 学部1年

徹夜でアセンブリ書いたりCTFしたり低レイヤ周りで遊んだり。学科にプログラム書いたことある同級生がいなくて驚いた。この頃はケーキ屋でバイトしてたり陸上やってたり軽音サークルでドラム叩いてたり一般大学生っぽかった。春休みにRuby on Railsに触れてそっからWebの世界に入る。

2.2 学部2年

開発インターンを始める。他にもいろいろ開発のバイトをする。夜間にデッサンとか習うデザインの学校に通う。

Web開発に自信ニキだった。いわゆるダニングクルーガー効果。

リクルート主催のシリコンバレーワークショップに参加する。これに通ったのは正直奇跡で、参加が人生の転機になった。その時のクソつよ人類達とは未だに連絡を取り合ってる。

2.3 学部3年

クラウドワークスインターンを始める。1年間とても楽しかった。当時の社員さんたちとはまだ交流がある。みんな強くていい人たち。他にもいろいろな会社で並行してコードを書いていた。この時期ストレスで倒れた。ウケる。

2.4 休学

アメリカ就活をする。帰国して実家に引きこもり英語とコンピューターサイエンスの勉強を半年程する。月1回TOEIC受ける時しか外に出ない生活だった。1日中本を読むだけの生活を2ヶ月程する。よく覚えてないけどこの期間に100冊以上読んだ気がする。Boostnoteの開発が一番盛り上がった時期である。この前Boostnoteの横溝さんが当時を振り返って「あの時末ちゃんマジでずっと引きこもっててすごかった」と言っていた。

2.5 学部4年

復学。院試の勉強。第一志望の大学院に落ちる。悲しい。中国語の勉強。研究室HPの開発。アリババクラウドMVP卒論。

2.6 修士1年

月の売上が結構あったので税金面を考え4月に個人事業主として開業。いわゆるフリーランス。家賃光熱費生活費等を自分で払うようになった。

6月に初めての学会発表。12月学会で賞とった。授業やら学会やらカンファレンスやらいろいろ取り組んでて、ヤベえ忙しい時は1ヶ月で8回重めのプレゼン発表があるというトチ狂った状態だった。これに追加で2社分の稼働もあったので、5時寝8時起きの3時間睡眠で生活して1本1500円のバカ高ユンケルくんでしのいでいた(当時のツイート。ヤバい)。人生で一番忙しかった気がする。プレゼン発表に関しては自分が大変なだけで他所への責任は一切無かったのでまあまあ楽しかった。

ちょっと大きめのカンファレンス(≠学会)にプロポーザル投げたら通ったので発表した。

2.7 修士2年

コロナ。目指していた学会の査読に落ちる。悲しい。予定されていた上海交通大学への留学が中止。悲しい。6月就活開始。8月内定。ありがとう通年採用。機械学習にハマる。コンペでメダルを獲る。他には趣味でSaaS作ったりジョブキューシステム作ったりした。コロナで大学にもあんまり行けなかったし割とゆるい一年だった。

3. (やりたかったけど)やれなかったこと

3.1 起業

めちゃくちゃ色んな人に「起業しないの?」って聞かれました。そういうタイプっぽいのでしょう。いろいろ考えて動いた時期もあるのですがやはり一人じゃ無理でした。

3.2 留学

残念ながらコロナで中止。留学は学生のうちにやってみたかったですね。

5. まとめ

修士までしか行ってないし学歴という点では7年は長い方ではないのですが、年月としてやっぱり7年は長い。

そういえば英語と中国語を結構学んできましたが見事に英語も中国語も使わない環境で働いています。ウケる。素振りが上手い野球部員(万年ベンチ)みたいな。

どこかしらで載せた気もするけど、小学校の卒業文集に書いた将来の夢。超天才ではないがだいたい叶ったぞ。

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もうじき26歳になります。たぶん私はプログラミングを始めた13年前とあまり変わっていません。というわけでほしい物リストです。お願いします。

Amazon.co.jp

総理通訳の外国語勉強法 / 中川浩一

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読んでいて感じた感想等の放流。

感想

「外国語は誰でもできる!」みたいに言ってるけどさすがに慶應→外務省の人間が言うと説得力なさすぎる。金銭的に恵まれ頭の良い人間を見すぎて下の人間の存在が頭に無いのだと思う。

欧米の人たちは自分の言語にプライド持ってて外国語を素直に受け入れないってイメージ、確かにある。侵略の歴史があった国は特にそうだと聞く。この点日本人は外国語を話すことに対する嫌悪感は全くないと言っても良い。

一定期間内に語学を学習せざるを得ない立場にいて、緊張しながら練習する機会も与えられた人間、そりゃ身につくよって感じ。仕事でその言語を使わない人間はこういう状況を作り出すことが出来ない。

この本、簡単に言うと「スピーキングファーストで勉強しようね」って話。これは私の中国語学習の実感としても正しいと感じている。中国語学習は中国語会話の授業から始めたのだけど、この授業のおかげでかなり話せるようになった。スピーキングができると総合的な能力も高くなったと感じることができて楽しい。と言っても中国語は漢字を使うからリーディングは多少簡単だけど。もちろんスピーキングの前には文法知識の学習と単語の暗記が必須だけど。

スピーキング能力を上げるとリスニング能力もシナジーで上がる。 TOEFL対策の面談で言われたやつだ。英語、もう少しスピーキング能力上げるかー。

自己紹介とか挨拶とか、使いそうな文章を予め「自己発信ノート」に書いて口に落ち着けておくってやつ、アメリカ就活で似たようなこと散々やったなあ。小手先感は否めなかったけれども。あのときは今の3倍くらい英語話せてた気がするし、やっぱ必死に英語を使う機会って大事だよなあ。でも、やっぱりこの「自分の状況を踏まえて文章を予め作っておく」ってスピーキングでは大事やな。TOEFLでもこれよく言われてるし。いやよく考えたらこれってまんまTOEFLスピーキングやん。うーん、中国語でもやってみよ。熟語とか入れたいなあ。

そういえば、中国語はスピーキングばっかりやってたので口が単語を覚えていて全然書けない。話せるけど書けないって、言語としては正しいよなあ。読み書きは高等スキルだし。

ぼんやりと「語学を学習すること」について書かれた本。あまり学習の参考になるようなものではない。マトモに学習している人なら元から分かっている内容で、そうでない人は読んでもイマイチピンと来ないのではないかと思う。

シリコンバレーワークショップで同時通訳の人の通訳を聞けたの、かなりいい経験だったかもしれない。

「心臓に毛が生えている」という表現が出てきたけど、米原万里を意識してるのかもしれない。米原さんもそうだけど、同時通訳者って熱い人間が多いのかもしれない。

最後に日本の異文化理解が英語に偏っていることを懸念しているけど、これは本当にそうだと思う。国際理解として多様性について腕を伸ばさねばならないはずなのに画一化されている。

たったひとつの冴えたやりかた / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 朝倉久志訳

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読みながら書いた感想等の放流

感想

大学の図書館で司書さんがカップル(人間ではない)に3冊の本をおすすめして、その内容が全3話として書かれている。翻訳がちょっと残念。

「第一話、たったひとつの冴えたやりかた」勇気ある女の子のお話。コーティは宇宙を夢見る女の子で、15歳の誕生日に父親が買ってくれたスペースクーパーでこっそり旅に出る。しかし船内で移動中のコールドスリープ中に微細な脳寄生体がコーティの頭に住み着いてしまう。この寄生体の名前はシロベーンで、冒険をしたくて母性を出てきた若い寄生体。この寄生体はイーアという種族で、知性を持ち他種族を宿主としてその宿主の頭に住む。寄生した最初はまだ知能はないが本能的に脳の方に進み脳で成長してその脳を借りて知性を発達させる。

イーアにはヒューマンの戦争のような争いはないと書かれているけど、これは技術を持たないイーアは代わりに心から発達しているのかもしれない。ニュータイプみたいに他人を理解し合う、感じ合う心を持っているから争いが起きない。

イーアドロンの場合はドロンに意思がないからイーアが完全に制御していたが、意思を持つヒューマンにイーアが入ると2つの意識が同化しそう。最後はもうほぼ同化してたんじゃないかなと思う。

そういえばアトムも最後は爆弾を持って太陽に突っ込んだな。

「第二話、グッドナイツ、スイートハーツ」大戦期の英雄がお仕事する話。カウボーイビバップみたいな雰囲気。始めの方は情景が全然想像できなかった。アメコミもそうだけど、アメリカのSFって説明少なすぎじゃない?

ぼくが一番電子カルテをうまく使えるんだ! / 内藤孝司

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読んでる時に書いた感想を若干まとめたものの放流。

医療用語全然知らないけど文脈からも類推できなかった単語はレセコン、シェーマ、シュライバーの3つしかなかったので医療知識の少なさは読む妨げにならなかった。

感想

名古屋の近くにある、来院者は1日平均180-200人の耳鼻咽喉科医院の院長さんの本。設備投資への理解はあって開院後に電話予約装置や高価なききを導入している。また、従業員は若い人間が多く、ITへの苦手感は薄そう。

2012年の本だが、かっこの中に補足が書かれていて2000年代前半を思い出すようなちょっと古いタイプのオタクっぽい文章。もう9年も前の本だから恐らく現状はかなり進歩していて、最近のクラウド電子カルテとかはもうここに書かれている当時の問題は発生しなさそう。そもそもスマホの普及でITリテラシーが底上げされていると思うし。でもこの本は電子カルテの歴史を現場視点で知れるいい資料だと思う。

2007年くらいはどの開業医も電子カルテに手を出さず興味も持っていなかった。これは電子カルテを導入すると診察に時間がかかって患者数が多いと回らなくなってしまうかららしい。時間がかかると思われていた主な原因は、電子カルテはシェーマを絵で描けなくて、シェーマをキーボードで打つのは大変と言われていたから。他にも電子カルテへの反発意見は、当時電子カルテを使いこなすにはパソコンに詳しいこととタイピングの高速化が必要だったこと。基本的に医師のITリテラシーを期待してはいけなかった。実際筆者のITリテラシーはあまり高くなさそうで、LANをRANとスペルミスしてる。

電子カルテを導入する事例を知りたくて読んだが、9年も前の本なので技術の進歩によって今となっては参考にならなさそうな記述も結構多め。特に4章。

電子カルテの構築で筆者が重視したのは各システムの連動性。電子カルテを選ぶならデジタルレントゲンやファイリングシステム、予約システムとの相性を確認せねばならない。また、電子カルテの操作感は重要で代務医もすぐ使いやすいものが望ましい。

紙カルテの不便要素は、カルテの出し入れに時間がかかること、どこにあるか分からなくなること、診療回数が増えると分厚くなること、検査結果をカルテに貼る時間が無駄、レセコンへの入力に時間がかかる、の5つ。これらの作業がつらくて事務の医療事務の新入社員が辞めがちという問題もあった。

クリニックの院長さん、思ったより医療以外の業務が多そう。よく考えたら開業医って看護師さんとか医療事務の人たちの雇用主でもあるか。今まで医学の経験を積んできた人間が突然経営者になるって、そりゃ医療コンサルが儲かるわけだ。

電子カルテを作るときはIT機器の操作に慣れてない層をターゲットとして作らなくてはいけなさそう。今はタブレット端末が優秀になったからタブレットでペン使って書き込む形式が当たり前のように期待されると思う。

院長視点のみでしか書かれてないけど、電子カルテ導入に反発するところの従業員視点の意見を見てみたい。人が辞めるにはそれ相応の理由があるとは思うし、電子カルテ導入のみがその理由になるとは思いにくい。例えば従業員の意見を聞き入れず導入を強行した、とか。あるかもしれん。あ、やっぱり「重要で同士のつまらないあつれきも原因だったようです」と書かれている。

音声入力機能とか、最近の電子カルテには付いているのだろうか。今だと実装もさほど難しくなさそう。打ち込み作業に難があるなら今だとOCRとかの画像認識が有効な選択肢になりそう。

電子カルテにプログラムミスがありました」ってセリフ、笑ってしまった。大きなバグで医院が経営破綻してそれまで通院していた患者さんが別の遠い病院に行かなくてはいけなくなり、悪化して死んでしまうかもしれない。バグが人を殺す。このバグの内容を読んでみると、バグではなく設定ミスらしい。設定ミスのガードが実装されてなかったのは問題ではあるけども。しかし不具合を何でもかんでも開発者のせいみたいに言われてもなあ。

ずっと1stガンダムのセリフだったのに突然0083のデラーズ閣下が出てきた。

電子カルテを"台"でカウントし、原価は数万円〜10万円ちょっと、と言っているのはさすがに解せない。そういえば2012年くらいはまだソフトウェアにお金を出すことに一般の理解がなかった時代だったかもしれない。

ミスが命取りの仕事だから、確認作業の重要性が高い。この確認作業も自動でサジェストされるともっと効率化になりそう。たぶん既に実装されてるんだろうけど。

この人大きめサイズのペンタブへの文句がすごいな。親でも殺されたのか。怒りたいから怒っているだけのよう感じる。あと文句言ったあとに免罪符のように「ワコムのペンタブは世界一」って言っておけば許されると思ってるのはなんか炎上ネット民っぽい。第6章は特に酷い。

ちょっと強い言葉を使うと筆者から「僕は頑張った。悪いのは環境とメーカーと他の奴らだ。僕は正しい。」というような被害者ヅラを感じる

高校生のための経済学入門 / 小塩隆士

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読んでる時に書いた感想と内容の要約を読後ちょっとまとめたものの放流。

他の本の感想と比べて文量が多いことからこの分野への興味を感じる。

感想とまとめ

「何らかの制約の下で最適な行動を探す、これが経済学の発想です。」と冒頭にあるように、経済学は最適化問題と似ている。しかし現実の経済活動は複雑すぎてそのまま解析するのは難しい。だから純化して経済現象を一般化するというのが経済学の手法となる。また、個人単位の、月の収入以内で生活をしていく普通の家計のやりくりも経済学に含まれる。これを会社同士や国同士で石油を売買するなどのもっと大きなスケールで効率性を追求するというのが経済学が取り組む問題になる。

冒頭で「近ごろの若者は…」的な意見が散見される。「昔に比べると、大学に入学することはずいぶんやさしくなりました。」みたいに特に今の大学生にかなり不満を持っている様子。多分この人は優秀層と何の接点もない下層しか見えない層にいるんじゃないかな?というか、「最近の大学生は不真面目」という結論だけが欲しくて見たいものしか見えてないような印象。学生が不勤勉になっている事を言うなら学生だけを責めるのではなくその上の教育課程の言及は必須のはずなのだがそれもない。あと、大学生が勉強会しなくなった、というのはいつと比べているのかも不明。明治時代と比べてるのか?

市場原理は変動があっても需要と供給が一致する価格にバランスされる仕組みのこと。

消費者にお金がなくなって需要が大きく減ると企業もそれに合わせて価格を下げなければならず、これが社会全体に波及すると経済全体の物価水準が低下し、デフレという状態になる。

資源は欲しがっている人の元に自動的に分配される。これは企業間の競争で達成される。資源配分の効率性という点で市場メカニズムは有利。社会主義経済のような「みんな平等」な世界では効率的な資源配分はできない。つまり経済の仕組みは複雑で人間が全てを把握するのは不可能だから市場メカニズムの流れに任せるべき

市場メカニズムの企業同士の競争により、市民が自分自身の利益を追求することで社会全体が効率的に回るようになる。

市場に対して強制力を持つ上位の存在である政府の役割は市場メカニズムをうまく回すことと市場メカニズムで解決しない問題を解決すること。

企業が一番楽に需要と供給をコントロールするための手段が独占とカルテル。これらによって競争を機能させなくする。これを防ぐために公正取引員会という役所が独占禁止法を元に不公平な取引を取り締まる。ただ、現状独占状態の企業もこれから新規参入する企業と潜在的な競争をしていると言えるので、政府は市場への参入障壁を低くしたり外資企業の参入を認めたりすると競争が行われやすい状況になる。

政府が介入すべき問題には外部効果、公共財、情報の不完全性、費用逓減の4つがある。情報の不完全性について、例えば医療保険がある。医療保険を民間に任せて任意加入にすると不健康な人間しか加入しなくなり、1人あたりの保険料が高くなってしまう。これを防ぐために、政府が社会保険として医療保険の仕組みを作るべきである。

市場では解決できない問題に所得格差がある。市場で人々の能力が正しく評価されそれに応じた給与が支払われるようになるとどうしても格差が生じてしまうし、市場に任せたままではこの格差は広がる一方になる。ここで政府が高所得者から多く徴収し、所得の低かった人に生活保護などの形で再配分する。このようにして社会としての公平性が成り立っている。しかしここで、どの程度の公平性を政府が負わなければならないかという問題が生じる。この問題への対処には何を基準として社会全体が幸福であるかについての基準が必要になる。この基準は大きく2つであり、社会にどれだけ貧乏人がいても全体の所得の総額が高ければ高いほど幸福であるという考え(功利主義)と、所得の低い人の幸せが社会全体の幸せの度合いの尺度となる考えである。富の再配分と言われると脊髄反射共産主義を思い浮かべ日本とは違うことのような印象を受けてしまうが、よく考えたら生活保護とかは再配分だった。主義者にはならず効率性と実利によるバランスが大事。

実際、競争による効率性と分配による公平性の両立は不可能で、どちらをどれくらいのバランスで折り合わせれば最適であるかという問いに対する解答はない。結局社会は人間の群れなので「そういう風潮だよね」な感覚的な多数決で決まる。

社会が不況で企業が採用を絞ると労働需要が低くなる。しかし人間は仕事をしてお金を稼がないと生きていけないので需要は高いままの状態になってしまう。政府はこれを解決するために公共事業などで雇用機会を創出したり景気回復のため税率を下げ購買を推進したりする。このような政策は景気対策と呼ばれる。このようなバランスするのに時間がかかかる大きな問題に対して政府の役割を示すのがマクロ経済学である。

マクロ経済学ミクロ経済学の考えをベースにしたもので、具体的な問題に対するアプローチを考えるのに役立つ。

「景気が良くなる」状態とは、消費者の所得が増えてたくさんものを買い、企業がたくさんものを生産して売っている状態のこと。「所得が増える」「たくさん売れる」「たくさん生産する」の3つは密接に影響しあっており、これらは同じものを別の角度から見たものにすぎない。

実際に景気(経済)の大きさはGDPで測るため、GDP景気動向を調べる基本的な指標になる。景気は良い時と悪い時で循環するが、その基本的な原因需要と供給のバランスが崩れること。

インフレが毎年続くと予想される状況だと消費者が「今買わなければ値上がりする」と判断するために需要が高まり、実際に将来の値上がりが確実なものになってしまう。更にこれに伴って企業では従業員の賃上げ要求が起こりやすく、更に企業は価格を引き上げる。この悪循環をインフレスパイラルという。インフレが進むとお金で買えるものの数が少なくなるためお金の価値が下がる。日銀などの中央銀行は物価を安定させてインフレやデフレを防ぐための仕事をしている。

多くの税金を使って教育や公共事業などの行政サービスを充実させる政府を大きな政府、行政サービスの拡充を追求しない政府を小さな政府という。1980年以降、先進国で大きな政府の弊害が大きくなってきたため大きな政府は問題視されている。政府は企業と違って多少赤字が出てもすぐには潰れないので効率性を向上させる要因が少ない。大衆は行政サービスは維持運営に大きな負担が必要であることに目を向けず拡充を求める傾向にある。そして政治家もこれに大衆の意向に従って行政サービスの拡大を主張する。これが大衆迎合主義(ポピュリズム)であり、ポピュリズムが一般的になると財政が常に悪い状態になってしまう。ポピュリズムが発生する原因は行財政の複雑化にあって、サービスの享受とそのために発生する負担の関係性が見えなくなってしまっていることが原因。これによって大衆ウケのよい主張が幅を利かすことになる。特に大きな政府だとこの問題が顕著化しやすい。

大きな政府と小さな政府のバランスの最適解は無く、現実の働きから計算して悪いところを改善していくしか無い。

国債は政府の借金だが、国民にとっては資産となる。しかし国民が国債の将来性を危ぶんだ結果国債の買い手が付かったり国債を一気に売ったりすると国債の価値がなくなってしまう。これを財政破綻という。

民主主義は現在税金を納わめている世代の多数意見を反映するため、将来世代の意見を反映しない。だから将来世代の負担が重くなり続ける。これだと少子高齢化社会は下の世代の負担が増え続けていつか破綻してしまう。