夢十夜 / 夏目漱石

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青空文庫Kindle版で読んだ。Wikipedia曰く、「夏目漱石には珍しい幻想文学」だそうな。

読んでる途中に書いた感想等の放流。

感想

薄暗い雰囲気なのだけど色鮮やか。コントラストがあってとても良い。夢でありがちな、時間感覚と空間感覚が欠如した様子が書かれている。

坂の上の雲に書かれていたけど、明治時代は日本語の決まった形がまだなかったらしい。夏目漱石の日本語は現在のものとあまり変わらないように思うので、夏目漱石が今の日本語を作ったのかもしれない。明治時代に書かれた文章でこれだけスラスラ読めるのはすごい。

一、二、三、五夜のみ冒頭に「こんな夢を見た。」と書かれている。これらは実際に見た夢をベースにしている話で、他はこういう夢見たい、みたいな願望だったり?夢のような話って言うし?もしくは現実に根ざしたお気持ちを夢という形で表明しているのか。

前半は夢の雰囲気をそのまま文章に起こしたようなものだったが、後半は書いた当時の時代的な気分が書かれている。前半と後半で雰囲気がかなり違う。

第二夜は和尚から悟りを開いてない事を煽られた侍がキレ散らかしながら悟りを開こうとする話。しまいには自分で自分を殴りまくってる。

第三夜は子泣き爺みたいな話。怪談っぽいテイスト。6歳になる盲目の息子を背負って歩いている。息子は何かおっさんみたいな声と話し方をしていて、まるで目が見えているかのように自分に指示を出している。で、結局杉の木の前まで連れてこられて自分がここで100年前に人を殺したことを思い出させる。罪を背負う事を自覚する話ですかねえ。

第四夜。酔っ払った爺さんが柳の下にいる三、四人の子供の前で手拭いを蛇に変えようする。結局蛇には変わらずに近くの川に入水する。冒頭で爺さんがへその奥が家って言ってるしこれ生まれつつある赤ちゃんの話じゃないかな?蛇はへその緒で笛は産声。川の中に入るのは、お腹から出てくること。知らんけど。

第五夜。戦に負けて敵の大将に捕らえられた男が殺される前に愛する女に会いたいと言って、女が白馬に乗ってそこまで来ようとする話。視点が突然飛ぶし女は男の元に行かねばならないことを知ってるしで、いかにも夢で見ている光景をそのまま書いたという感じ。

第六夜。運慶が仁王を彫るのを眺めている話。野次馬の一人に「木を彫って人の形を作っているのではなく木の中に人の形をした完成品が隠れていて、それを彫り出すだけだから簡単だ」と言われて帰って薪を使って試すけど見つからない。結局明治時代の木に仁王は埋まってないと結論づけた。明治時代の日本には仁王のような大きく強い者はいない事を嘆くような気分を感じる。この時代の人間特有の憂国感なのかもしれない。

第七夜。大きな船に乗っている人がいつ上陸できるかも分からない心細さから海に飛び込んで自殺する話。これも明治時代特有の気持ちのような気がする。他の乗員は欧米の他の国のことを言っていて、開国したてで欧化の流れにうまく乗れるか分からない不安を書いていそう。

第八夜。床屋で椅子に座っている間に床屋の鏡で外の様子を伺うが、音は聞こえるのに鏡には何も映らない。

第九夜。父が死んでいるということを知らずに父の無事を願ってお百度を続ける母と、母の気持ちを知らず激しく泣いたり動いたりする子。冒頭に「世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争が起りそうに見える。」とあるが、これはたぶんそのまま書いた当時の社会の気分。日露戦争開戦前かな。(読んだ後Wikipedia確認したら1908年の連載で、戦後。戦後の動乱だったか。)

第十夜。第八夜で出てきた庄太郎がまた出てきた。女に拉致られてから久しぶりに帰ってきた庄太郎の話。