悪意 / 東野圭吾

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読みながら書いた感想を読後ちょっとまとめたもの。

ミステリーのあらすじ・感想って難しい。

あらすじ

主な登場人物は元教師の野々口、売れっ子小説家の日高、そして野々口の元同僚で現在は刑事の加賀。物語は野々口の書いた手記と加賀の視点の2通りから進んでいく。日高は自身の書いた小説を野々口に盗作され、その恨みで日高を殺したと主張する。しかし捜査を進めていくにつれて野々口の書いた手記に疑問を持った加賀の調査により本当の真実が明らかになる。

感想

読みながら感想を書いていたが、ストーリーが二転三転するため書いた感想がことごとく使い物にならなくなってしまった。読んだ感想は、平日に一気読みしてしまうほどとにかく面白かった。読む前に前評判として東野圭吾全盛期の傑作、ということだけは知っていたのだが、確かに伏線を回収する展開や人物描写の緻密さがとても優れているように思った。物語は野々口が書いた手記の部分と刑事である加賀の2つの視点で進んでいく。手記の部分は手記らしく書き手の感情の起伏が少なく淡々と書かれていき、事件の動機が明らかになると共に少しずつ登場人物の内面が暴かれていく

ちなみに時代背景は2000年前後。文中に出てくるリダイヤルとかカセットテープとかフロッピーディスクとか、今の小学生が見ても何も分からなさそう。スマホどころかインターネットの一般普及より前なので、今と比べると情報に対する扱いが丁寧な気がする。今は誰でも手軽に素早く情報にアクセスできる時代。情報戦であるミステリー小説において最近を舞台としたものはスマホとかインターネットの仕組みをよく知っていないと書くのが難しくなっているのかもしれない。

最後の展開は本当に騙された。書かれていた手記が全部嘘で、小説中で起きた本当のことが書かれていないのは予想できなかった。完全に操られてしまった。最後に全て納得の形でひっくり返るのはすごい。

タイトルとなっている「悪意」はやはり物語の鍵となるものだった。最初は悪意というタイトルなのできっと文中にも登場人物の悪意を示すような描写が出てくるだろうと思っていて、実際冒頭の猫の話は分かりやすく日高の悪意を示すものだと思っていた。しかし、確かにこれは悪意を示す文章ではあったが日高の悪意ではなくて野々口の悪意であったというのは面白かった。

結論としては野々口は殺人犯でありながら盗作をした日高の被害者という立場を得ようとして手記もトリックもでっちあげられたものだった。実際にどうだったかは本人から語られずに加賀の断定的な宣言があるだけだが、最終的に加賀は「とにかく気に食わないから、気に食わない」という悪意から野々口が日高を殺したのだと結論づけている。野々口は過去に理由なき悪意を受けたと加賀の調査で書かれているが、理由なき悪意を受けた人間は他人にもそれを強いてしまうものなのかもしれない