滔々と紅 / 志坂圭
- 作者: 志坂圭
- 出版: 2017/02/24
- 読了: 2022/04/14
読んだ理由
Kindle Unlimitedで読めた。遊郭の独特な文化が好き。郭言葉とか絢爛豪華な内装とか。
あらすじ
9歳の駒乃は飢饉により吉原の扇屋という大見世に八両二分で売られる。売られた当初は痩せぎすでカトンボと揶揄されるほどであったが、翡翠(かおとり)花魁の禿(かむろ)としてしのほという名前で数年を過ごす。
12歳になり、生来の勝ち気な性格から楼主から素養を見出されたしのほは引込として囲われ読み書き・芸事習い事の稽古が付けられるようになる。その後、14歳になり名を明春(あきはる)とし新造出しを迎えた。
吉原の全焼などの事件はあるも稽古事をこなしつつ暮らし、明春は16歳になった。16歳で水揚げが行われるが、その場でも客の歯を折るという事件を起こす。水揚げ後は張見世に出るようになったのだが、客の歯を追った事件や将棋で客を打ち負かし髷を切った事件などが話題となって少しずつ客を増やしていく。
ある日、翡翠花魁に身請けの話が持ち上がる。身請けにより空いた序列を埋めるのだが、明春は先輩女郎を追い越して花魁となる。明春は花魁となったことでまた名前が代わり、二代目艶粧(たおやぎ)を襲名した。このときなつめという禿を抱えることになった。なつめは素直な性格で、地獄と呼ばれる吉原の中でも懸命に働いていた。
そんな中、藤七郎という客が登楼し艶粧がついた。この客はキリシタンであった。なつめは藤七郎からキリスト教の話を聞き、極楽に憧れを持ち信仰を持つようになった。しかしある夜、いつまでも振り続ける艶粧に怒った侍が扇屋に乗り込んできて、なつめを刺し殺してしまう。なつめは寺で供養されたものの、最期にパライソ(キリスト教の極楽)に行きたいと願っていた。この願いを叶えるため艶粧は死後もお授けができるという長崎のキリシタンに希望を持つ。
そして江戸の医者の息子である林太郎から長崎にいる医者に弟子入りする折、夫婦となり一緒に来てほしいと迫られ、足抜けしを決意し共に長崎へ向かう。このとき駒乃は23歳。無事長崎まで到着し、林太郎は医学の勉強、駒乃は畑仕事や読み書き・三味線を子供に教えながら暮らし始める。そして駒乃は死後のお授けができる長崎のキリシタンを見つけ、なつめのお授けをしてもらった。
それから子を為し親子3人で暮らしていたが、労咳によって32歳でこの世を去る。(917文字)
感想
テーマにも関わらず悲壮感、薄暗さ、陰鬱さはあまり感じなかった。むしろ粛々と流れていく時間に抗えず身を任せている様子が感じられて、「滔々と」とはそういう意味も含んでいるんだなと感じた。
足抜け未遂や姉女郎や禿の死などがあるものの、変わりそうで変わらない生活。籠の中の鳥として大きな流れに流されるまま滔々と過ごすことになる。
ただ、滔々とした中にも変化はあり、それはなつめの死によりもたらされた。死の前後で主人公駒乃の性格は変わり、なつめの死後はそれまでの勝ち気な性格は鳴りを潜め、どこか陰のある性格へと変化した。
このまま陰りを湛えたまま日々を過ごすのかと思いきや、長崎になつめの救いがあると知り、更に長崎に行く話を持ちかけられて行動に起こす。これは自分で切り拓く類の行動のようにも思えるが、よく考えると偶然に客2人から流れてきた話に乗っかって運良く目的地にたどり着けた、という様子でしかない。
主人公は現代的な考えをしがちで、これにより感情移入がしやすくなっていると思われる。確かに読みやすく、2日で読み終わった。
個人的にはもっと陰鬱な話を期待していて、籠の中の鳥が籠から逃げ出してみたらそこには少し大きな籠が広がっているだけだった、みたいな話だとか籠から逃げ出すこともできず羽も足ももがれて苦しみながら生きながらえる、みたいな話が好き。遊郭をテーマにしているにしてはドロドロした内面描写が少ないように思えた。
まあでも面白かった。