小隊 / 砂川 文次

  • 発売: 2021/02/12
  • 読了: 2022/04/17

読んだ理由

戦争にまつわる話が好き。自衛官の友達が多く、等身大の自衛官を書いた作品であるとの評判を目にしたため。

あらすじ

北海道侵攻してきたロシア軍と対峙する陸上自衛官の姿をリアルに描いた作品。

初級幹部の安達は小隊長として前線に配置されたが、1ヶ月続く膠着状態や満足な物資がない山での生活に辟易していた。

そしていつ戦端が開かれるとも知れない膠着状態の中、じわりじわりと戦闘の気配が近寄ってくる。

いざ戦闘が始まり、与えられた役割に心を委ねることで恐怖心を抑え込み各分隊に命令し応戦していく。しかし兵力や情報の不足により状況は絶望的。小隊も次々と死傷者を出していく。

初めての戦闘に際した緊張、不安、高揚などが一自衛官の視点で解像度高く描かれている。

感想

ここまで自衛官を現場の立場で描いた作品はそうそうないように思う。人物描写、戦闘描写で言うと村上龍の「五分後の世界」が近しいが、この作品はもっと踏み込んだところまで描いている。

ストーリーは間延びせず、読みたい描写を的確に適度な長さでまとめていて非常に読み易い。

「現代の戦争は情報戦だ」という話もあるように、情報についても記述がある。しかしポジティブなものではなく、「情報がギリギリになって伝えられる」を筆頭としたネガティブなものであった。これは二次大戦の反省がなされずそのまま同じ過ちを繰り返している旧態依然とした自衛隊トップを描こうとしているのだと思う。ただ、現実の陸上自衛隊は実際にはもう少しマシになっていると予想している。

また、現場の自衛官に伝えられる情報は全体的にぼんやりしており、戦闘という具体的な出来事が起こるまでは何も確定していない宙ぶらりんの状態である。この宙ぶらりんの不安定さ、地に足つかなさをぬかるんだ山で満足な生活ができない不快感を描くことで増幅させているように思う。

物語の終わりでまとわりつく不快感の大元である泥が川で一気にすすがれる。これによって開放感や不安定から安定への状態の変化、確定を表現している。