藻屑蟹 / 赤松利市

  • 作者: 赤松利市
  • 読了日: 2022/04/23
  • 出版日: 2019/03/08

あらすじ

主人公はパチンコ屋の店長。

田舎のパチンコ屋で、このままだとこれ以上の出世は見込めないことが予想できて鬱々と日々を過ごしていた。そんな中原発事故が起こり、主人公の住む街に避難民が増えた。避難民は補償金で国から大金をもらっていて、自分たちの町にも羽振りがいい人が増えたことを感じていた。

主人公は彼らが働かずとも大金を手にしているという話を聞き、苛立ちや憤りを覚えていた。そんな時、工業高校の同級生で原発関連の仕事をしている純也から月50万円の仕事の話をもちかけられる。そして主人公は金欲しさにパチンコ屋を辞め、純也の話に乗ることにする。

作業場に赴き、そこで純也から任されたのはオヤジさんと呼ばれる過去30年原発作業員をやってきた老人の世話だった。純也はこのオヤジさんを使って1億を稼げるがその方法はまだ伝えられないと言う。

主人公は、本を借りたり釣りに出かけたりとオヤジさんと交流していくうちに鬱屈した気持ちが氷解していく。

だが純也が伝えられなかった1億円稼ぐ方法とは、オヤジさんを同意のもと自殺に見せかけて殺しその遺書で金を受け取ることだった。

そしてオヤジさんの意志のもと作業場近くの山に穴を掘り、穴の中に入ったオヤジさんに灯油を浴びてもらい火を付けた。大きく動揺する純也を尻目に主人公は1億円のネタであるオヤジさんの遺書を燃え盛る火に投げ込む。

この燃え盛る炎を最後に第一部は終わっている。この後は主人公が自首するところから始まり、さらに大きな流れに巻き込まれながら自分の願いと向き合い行動していく様が描かれている。

オヤジさんの遺書が燃えてしまいオヤジさんの死を利用して金を得るようなことがないと思っていたとき、純也からもっと大きな金を得られるかもしれないとの連絡が届く。

しかし純也は周囲を警戒する余り疑心暗鬼に囚われナイフで刺されて死亡する。そしてその後釜に入る形で今度は主人公が純也のポジションで除染作業員の職長として月500万円という大金を得る。

結局は金なのか、自分はオヤジさんと純也の命を金に変えただけなのでは、という葛藤が生まれ、最後は全てを捨てて逃げようとする。

感想

オヤジさんとの交流で憑き物が落ちたかのように金への執着がなくなった。というかむしろなにか憑いたと言ってもいいほどの豹変ぶり。純也も含めて、登場人物の印象が途中でガラッと変わって序盤と終盤では全く別人のよう。原発作業は人を変える、が言いたいのかな。

この作品あらすじ書くの難しかった。書きたいポイントが多くてうまくまとまらない。かと言って全部書くのはつらい。ノリユキ、関口、榊、マキなどの人物の話をあらすじにまとめようとするも断念。

オヤジさんとの出会いで金への執着が弱まったが、オヤジさんを殺してしまうことで死者だけじゃなくて金にも取り憑かれてしまった。取り憑かれる、というのをもう少し詳しく言うと本文中ではストレスという単語が使われていて、殺人に関わってしまうと一生そのストレスが解消されないとのこと。四六時中頭の片隅に殺した人間が浮かび付きまとわれている感覚。確かに「取り憑かれている」とはそういう状態なのかも。

ラストの、金から逃げようとする展開が少し雑な気がした。あの雰囲気であれば逃げられずバッドエンドを迎えそうなもの。いや、小説的に見れば雑だが現実的に見れば白黒つかない曖昧な感じは正しく思える。最後の丸投げ感が気になった。

最後が少し雑な以外はとても楽しめた。第1部が終わってそこから失速するかと思ったが、第2部からの新しい展開で更に勢い付けられた。第1部は蟹工船を読んでいるときと同じ気持ち、第2部はテロリストのパラソルを読んでいるときと同じ気持ち。第3部は…太宰治か?刃傷沙汰や夜遊びや自殺や金。このあたりから太宰治を思い出した。思い出しただけであって太宰治の作品を読んでる気持ちではないのかも。