プラナリア / 山本 文緒
- 著者: 山本 文緒
- 読了日: 2022/04/29
- 出版日: 2005/09/10
あらすじ
「生まれ変わるならプラナリアになりたい」春香は23歳の頃乳がんで右胸を切除した。手術後は快復に向かい退院するが、それからも定期的に治療を続けなければならず体力的にも精神的にも辛い日々を過ごしていた。
恋人の豹介との仲も良好とは言えず病気や態度のことで度々衝突していた。
そんな時、入院中同じ病棟にいた永瀬と偶然再会し、彼女の下で働き始める。最初は何もかも自分と違う美人な永瀬に憧れのような気持ちを抱いていたが、それが徐々に春香のコンプレックスを刺激し身勝手な怒りとして顕れてしまう。
繊細でめんどくさい女性を高い解像度で描いた作品。
感想
登場人物の解像度が高い。感情の機微が見えるし、明文化されていない行動の背景を想像させられる。
主人公の春香はがんになったことで元々あったであろう「被害者でありたい」という欲求が満たされてしまう。
被害者であることにこだわってしまっているので、ある程度快復してもがん患者であることにしがみつこうとする。
他者が怖く、自分が傷つけられるのを怖がっているから被害者ヅラして予防線を貼張っているように見える。他人から見たら非常にめんどくさい。自分と向き合うことも怖がっているので他人から正論で踏み込まれるのも嫌がっている。「自分はがん患者という特別な立場を手に入れたはずなのに気付いたらそれも失って手元に何も残っていない」という状況に気付きたくない。
体型を理由に虐められていたけど長い間改善されなかったのも被害者であることの気持ち良さから抜き出したくないからなのではと思う。
病気のことを理解されたい気持ちと、理解してもらいたくない、特別だと思ってほしいという気持ちが相反している。
他の短編も自分が特別だと思いたい女が書かれていて面白かった。が、やっぱり5篇の中ではプラナリアが一番良かった。