芽むしり仔撃ち / 大江健三郎

あらすじ

感化院から疎開するも数々の村をタライ回しにされる少年たちの話。最終的にたどり着いた村では疫病が流行っており、村人は少年たちを捨てて隣の村へ避難する。束の間村の主となった少年たちは村人たちの家で暮らしていくことを考える。しかしすぐに村人は帰ってき、好き勝手に振る舞った少年たちを糾弾する。

こういう文学作品ってあらすじにあまり意味を感じない。ストーリーよりも文章そのものにある描写の精緻さや複数の文章から感じ取れる雰囲気が大きい。

あと細かいけど感化院が犯罪行為をした子供を収容する施設であるという前知識は必須のように思われる。最初は宗教団体かと思った。

感想

最初読み始めて感じたのは、少年たちの奇妙な一体感だった。これはかなりの頻度で「僕ら」という単語での描写があるためのように思う。イメージとしては同じ髪型同じ顔、同じ服装の少年たちがほとんど同じ行動をしているようなもの。

南や僕、弟、李、脱走兵などは区別できる個として書かれており、他の少年たちについては全て均一の振る舞いをしているように感じた。いわゆるただのモブなのだが、それ以上に少年たちの集団としての空気感を表すために使われているように思えた。

全体を通して思うのは、この小説は暴力に屈服する話だ、ということ。少年たちは暴力で自然界の生物を捕まえ、脱走兵は兵隊に屈服し、少年たちは村人に屈服する。そして人間は疫病の暴力に抗えない。全員が何かに怯えており、それを和らげるかのように暴力的になっている。また、度々ある暴力的な描写とそれを仕方ないと感じている描写に戦中の血なまぐさい空気を感じる。

内容は暴力的だし全体的にグロテスクな雰囲気が漂っているのだが、生の活力に溢れた作品だった。