NHK出版 学びのきほん 自分ごとの政治学 / 中島 岳志

  • 著者: 中島 岳志
  • 読了日: 2022/05/01
  • 出版日: 2020/12/25

どんな本だったか

政治入門の薄い本。2時間以内に読み終わる。結論だけをざっくりまとめると「SNS等で政権批判をするよりも自分の身の回りで起こっている物事(野菜の値上げとかそういうの)を落ち着いて自分の頭で考える方が政治を考える上では有用」というもの。

まとめ

「我思う故に我あり」は、自分の存在の根拠が神ではなく自らの理性にあるという考えを元にしている。この考えの広まりによって、「理性の持ち主である国民こそが主権者だ」という思想が生まれフランス革命が起きた。これが国民国家の始まり。

左派はこの合理主義を信奉する人たちにより構成される。合理的な行動を続けることで世の中をより良くしていこうと前進させ続けようという考えの派閥。大きく分けると国家がこれを実現させるタイプと、権力に頼らず個人の力で平等社会を実現するタイプ。前者は共産主義社会民主主義が例として挙げられる。社民主義は投票で選ばれた代表者が富の再配分を行い貧しい人にも豊かさを与えるというシステムを目指している。後者の例は極端なものだとアナーキズム(無政府主義)が挙げられる。これは自立した個人によって運営されるコミューンさえあれば暮らしていけるという考え方。

では右派は何かというと、過去に重要な叡智があり、それは今よりも素晴らしいものであるため世の中を良くするためにはその状態を取り戻さねばならないという考えの派閥。右派にも2つの立場があって、右翼と保守がある。右翼は原理主義と言い換えが可能で、特定の過去に対する回帰の念が強いという特徴がある。例えば日本なら万葉の時代、あるいは天皇の大御心にすべてが包まれていた世界へ回帰しよう、国体を取り戻そう、という考え方がされる。右派はこのように理想社会を過去に見出し、左派は未来に向けて社会を進歩させようとする。

次に、保守は世の中の変化に合わせてゆっくり変化していくことが大切だと考える。理性は信用に足るものではなく、むしろ過去に培われた経験知などに重要な叡智がある。物事を一気に変えるのは理性に対する過信、うぬぼれである。ただ、状況は変化するのでその変化に合わせて徐々に改革することが重要になる。つまり保守するための改革が必要になってくる。

現在の左右の考え方は今までと違ってきていて、左派に合理性に対して懐疑的な意見を持つ人が増えてきている。なので最近では左右の違いにあまり大きな意味がなくなってきている。

お金をどう分配するかが政治の大きな役割の一つ。

リスクの個人化、つまり自己責任の比率が大きくなると歳入と歳出の療法が小さくなる。これは小さな政府と呼ばれる。

リベラルは自由主義で、他人の行動や思想を許すことにある。それに対してパターナルは他人の思想や価値観に介入すること。例えばリベラルなら選択的夫婦別姓には賛成のはず。これは個人の価値観に委ねるべきということになる。パターナルは国が定めている以上選択的夫婦別姓には反対する可能性が高い。リベラルは多様性に対して寛容。

日本を国際的に見ると、かなり小さな政府となる。税金は安くGDPに占める国家歳出の割合も小さい。税金が少ない分国は国民にお金を使っていない。1000人あたりの公務員の人数も少ない。よく言われている「日本は税金が高く公務員が税金を食い潰している」というのは冷静な意見ではない。

感想

本文は話し言葉で分かりやすく、説明も筋が通っていて納得できる。説得力のある文章、という感想。特に序盤は政治の基礎の基礎を説明してくれていて、知識の整理や入門には適しているように思った。

著者が自身の専門であるガンジーのことについて長めに書いているのはご愛嬌というところだろうか。ただやはりガンジーの部分で中だるみしているように感じたのでもう少し短い方が良かったように思う。

序盤では右派と左派についてフランス革命などの歴史を紐解きながら説明されていた。書かれていたのは、他人に理性や合理的な行動を期待するのが左派で、そうではなく過去の歴史から叡智を得るのが右派という解釈で、なるほどなと思った。

自分が思っている「日本にいる殆どの人間は偶然日本語に聞こえる鳴き声を発する猿」という考えは人間の理性に対して疑問を呈するものなので右派になるのだろうか。

自分は基本的には自分の見える範囲だけが充実していればいいという考え方。なので生活保護の充実とかは気にしない。消費税増税も家計に余裕がないわけではないからさほど気にならない。

ただ、小さな政府で税金が少ないことが好ましいというわけではない。軍事費には使ってほしい。ただ、これは自衛官の知り合いが多いからここも見える範囲としているだけかも。日本の医療制度にも満足しているし。

最後は「もっと意識して日常を過ごすことで政治問題にたどり着く」という結論になっている。見えない遠くの物事を見るのではなく、手元の物事を近くで見るのが重要なのか。ネットニュースで遠くで起きた殺人事件の犯人に怒るよりも10円値上がりした野菜の値上がり理由を考えることが重要。同意。

NHK出版 学びのきほん」シリーズは短くまとまっていて他も読んでみたい。専門家が書いた同人誌、というノリの本だと考えるのが丁度いいのかもしれない。