十角館の殺人 / 綾辻行人

結局最後の答え合わせまで誰が犯人だったかは分からずじまい。人狼ゲームを見ている気持ちで読み進めることができていい本だった。

読み始めた当初は「登場人物の名前がニックネームだからキャラクターがいまいち思い浮かべにくい」と思っていた。しかしこれもトリックの一つで本土にいるはずの守須が角島にいることを読者に隠す役割だった。イマイチ本土の話が出てくる役割が分からなくて疑問だったのだが、ちゃんと大きな意味があって衝撃。まんまと騙されていた。

そもそもこの本の新鮮な点として、登場人物が全員推理していることにあった。ミステリ研究会という設定をうまく活かせておりよかった。全員が探偵役でその中の1人が犯人である、という構図。ワトソンくんも存在しない。全員が冷静に推理するも真犯人を暴けず次々と殺されていく、人狼そのもの。

ただやはりイマイチ名前の読みが独特だったり馴染みがなかったりで読む時に突っかかってしまいがちだった。江南をかわみなみと読むのに一瞬頭の中で変換作業が必要だった。

最初の半分くらいまで人が死ななくて展開が遅いな、と思ったのだが

「俺はな、人が殺されちまってから、あたふたと論理を組み立てるような名探偵どもは嫌いなんだ」

というセリフに全ての理由が詰まっているように思えた。ここもまた新鮮ポイントの1つであろう。

前半の大部分を状況説明やキャラクターの印象付けに割いているため、その後の事件パートや答え合わせパートは楽に頭に入ってきた。中弛みもなかったのでかなりいい構成だと言える。

割とお決まりかもしれないが、プロローグの瓶がエピローグでちゃんと回収され余韻を持ったラストとなっていたのも得点が高い。

面白かった。

AWSの本

1回目は通読。その時2回目に読み返したい部分をマークしておき2回目はそこ周辺をサクッと読む。3回目にノートにまとめる。4回目にこの記事を書く。

読んだ本

  • 改訂新版 徹底攻略 AWS認定 ソリューションアーキテクト − アソシエイト教科書[SAA-C02]対応 徹底攻略シリーズ
  • AWS認定資格試験テキスト&問題集 AWS認定ソリューションアーキテクト - プロフェッショナル
  • AWSコンテナ設計・構築[本格]入門
  • AWSで実現するモダンアプリケーション入門 〜サーバーレス、コンテナ、マイクロサービスで何ができるのか
  • AWSではじめるクラウドセキュリティ: クラウドで学ぶセキュリティ設計/実装

学んだことメモ

  • Sagaパターンとは?
    • サービスにまたがったデータの整合性を維持するための分散トランザクションの仕組み。例えばECサービスでマイクロサービスが決済サービス、購入履歴サービス、ポイントサービス、に分かれていたとする。この時、ポイントサービスに問題があった時に他のサービスでも取り消し処理をする必要がある。コレオグラフィとオーケストレーションの2種類がある。
  • Saga (コレオグラフィ) とは?何を使えば実現できるか?
    • サービス間での協調を行わず、それぞれのサービスが処理をする。どこかが失敗したら補償トランザクションを呼び出すイベントを新たに発行する。例えばAmazon EventBridgeを使ってこれを実現する。
  • Sage (オーケストレーション) とは?何を使えば実現できるか?
    • オーケストレーたーが各サービスの結果を確認しながら順番に処理を進めていく方式。オートマトンのように、処理結果を状態としながら遷移していく。例えばAwS Step Functionsを使う。
  • 補償トランザクションとは?
    • 取り消し処理のこと。サービスごとに確定したデータを取り消すための処理。
  • Fargateのデメリットは?
    • コンテナごとにENIがアタッチされるため、デプロイしたコンテナが起動するまで時間がかかる。CPU/メモリに制限がある。割り当て可能なのは4vCPU、30GBメモリが最大。
  • Well-Architected フレームワークの5つの柱は?
    • 運用上の優秀性、セキュリティ、信頼性、パフォーマンス効率、コスト最適化
  • VPCエンドポイントとは?
  • Application AutoScaling の2つのポリシーとその特徴
    • ステップスケーリングポリシーとターゲット追跡スケーリングポリシー。ステップスケーリングポリシーはメトリクスを見ながら段階的にスケールイン・アウトができる。途中で別のイベントが発生しても応答してくれる。ターゲット追跡スケーリングポリシーはメトリクスの値を維持するようにスケールする。AWSが勝手にタスク量を調整してくれるので一番マネージド。スケールアウトは高速だがスケールインは緩やかに実行される。
  • パブリックサブネットがインターネットと通信するための設定
    • パブリックサブネットのルートテーブルに、デフォルトゲートウェイ(0.0.0.0/0)が宛先として指定された時にインターネットゲートウェイへ向けるルールを追加する。共通のルーティングテーブルを作って各パブリックサブネットに紐づけるようにするのがよい。
  • ECSタスクの起動時にコンテナに環境変数を差し込むには?
    • Secrets Managerに環境変数を入れ、ecsTaskExecutionRoleにsecretsmanager:GetSecretValueを持ったポリシーを紐づける。ECSのタスクエージェントがSecrets Managerと通信するためにはインターフェイスVPCエンドポイントが必要。

全体を通した学び

不安だったVPCなどのネットワーク周りやIAMの知識を補完できた。AWSで実現するモダンアプリケーション入門 以外ではVPCとIAMについて言及されていた。読みながらBlackBeltもぼちぼち見た。

IAMはもっとしっかり頭に入れておきたい。stsとかまだそこまで詳しく知らない。ここは手を動かしてみるのがいいかな。

結局「AWSの知識を身に付ける」という点については試験勉強をするのが一番手っ取り早い。でも実際に使える知識・技能を身に付けるにはマネコン触って0から構築するのがよさそう。それはそう、という話ではあるけど。

自分が知りたいのはアーキテクチャのパターンというよりも実際に問題に遭遇した時のデバッグ方法であるということに気づいた。例えばなぜかALBがコンテナと疎通しないときに確認する場所みたいな。こういうのは自分で手を動かさなければ分からないことが多い。

とにかく次のステップは手を動かすこと。

〔少女庭国〕/ 矢部 嵩

あらすじ

卒業式に向かう廊下を歩いていルト意識を失い、気づいたらドア2つと貼り紙のある他に何もない部屋に寝かされていた。貼り紙には「ドアを開けた部屋の数 - 死んだ卒業生の数 = 1となるよう人数調整せよ」と記されていた。つまり最後の1人になるまで卒業生の人数を減らさなければならない。部屋にある2つのドアのうち一方は開かず、もう一方は開く。開く方のドアを開けるとそこには面識のない女子生徒が眠っている。ドアは無限に続いており、誰一人として面識のある者はいない。無限に続く女子のみの卒業生たちはどのようにして未来を手にするのか。

感想

読むのは2回目。こういう思考実験的な話は結構好き。石の部屋の中に閉じ込められているのだけど、窓がない室内に閉じ込められたら早々に発狂しそう。

現実のものと捉えるよりも、人間がコンピューターシミュレーション上で精緻な実験をしている様子と思う方が辻褄が合う。実際、文章もレポートのような文体であり、誰かに提出するようなものに思える。

無限に続く1枚岩、扉をトリガーに時間が動き出す卒業生、どこからともなく照り続ける光、必ず子がつく名前。これらはどこかコンピューター的で、自然物を感じない。作り出された3D空間で演算されている、と思うとしっくりくる。

酸素はなぜ供給されているのだろうか。数億年経つと木も生えるものなのだろうか。水はどうやって入手しているのだろうか。疑問は尽きないし人間世界でないと考えた方がやはり自然か。

高度に発展した世代では、覚醒した人間の教育はどうやっているのだろうか?明らかに最初は受け入れ難いものだと思うのだが、どのタイミングで現状が受け入れられるのだろうか。内部で生まれるのであれば、最初からそういう常識であると教育すればいいのだが、目が覚めるパターンだとまずは常識を入れ替えるところから始まるので大変そう。と、思っていたらちゃんと記述があった。「体験による洗脳」とのこと。なるほど。

物語全体にどうしようもない閉塞感があった。これは卒業生の扉は永遠に続くこと、解放された後の描写はないことなどから感じられた。変に脱出後の様子が書かれていないことはとても点数が高い。

10月読んだ本

  • [小説] 吉原手引草
  • [小説] TUGUMI
  • [小説] 潔白
  • [小説] 改良
  • [小説] 芽むしり仔撃ち

吉原手引草 / 松井 今朝子

聞き取り形式の作品。

遊郭の説明を物語中に挟むと長くなるし浮きがちだけどここでは吉原に来たことないから説明してくれ、という体で進むので吉原や遊郭の説明が自然に溶け込んでいる。

聞き取り形式だが、何が起こったかはなかなか明かされない。みんな「ああ、あのことね…」みたいな反応。

本の70%くらいまで「葛城花魁がいなくなった」くらいの情報しか出ない。さすがに物語の進みが遅いと感じる。

潔白 / 青木俊

久しぶりに一気読みした。

死刑が既に執行されているが冤罪を主張する被告側と、再審を阻止する検察・裁判所の戦い。手に汗握る展開でダレることなく最後まで読めた。

改良 / 遠野遥

ヒビの入った鏡の前にいるような内面描写。芥川賞候補作というだけあってクオリティが高い。

美への憧憬と醜い欲望の対比。

美しさは欲求としてしか現れず、実際の人物や物としては出てこない。いつまでも手が届かない。

とにかく醜い。美しさを強く求めているのは自分と周囲が醜いから。

芽むしり仔撃ち / 大江健三郎

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漫画

DLSiteでジャンプ漫画60% OFFセールあっていたのでいろいろ買った。結局買ったのは

合計115冊。多い。

他にも新刊をチラホラKindleで買っている。

まとめ

今月のザ・ベストは・・・TUGUMI?潔白?改良?迷う。改良は好きだった。

芽むしり仔撃ち / 大江健三郎

あらすじ

感化院から疎開するも数々の村をタライ回しにされる少年たちの話。最終的にたどり着いた村では疫病が流行っており、村人は少年たちを捨てて隣の村へ避難する。束の間村の主となった少年たちは村人たちの家で暮らしていくことを考える。しかしすぐに村人は帰ってき、好き勝手に振る舞った少年たちを糾弾する。

こういう文学作品ってあらすじにあまり意味を感じない。ストーリーよりも文章そのものにある描写の精緻さや複数の文章から感じ取れる雰囲気が大きい。

あと細かいけど感化院が犯罪行為をした子供を収容する施設であるという前知識は必須のように思われる。最初は宗教団体かと思った。

感想

最初読み始めて感じたのは、少年たちの奇妙な一体感だった。これはかなりの頻度で「僕ら」という単語での描写があるためのように思う。イメージとしては同じ髪型同じ顔、同じ服装の少年たちがほとんど同じ行動をしているようなもの。

南や僕、弟、李、脱走兵などは区別できる個として書かれており、他の少年たちについては全て均一の振る舞いをしているように感じた。いわゆるただのモブなのだが、それ以上に少年たちの集団としての空気感を表すために使われているように思えた。

全体を通して思うのは、この小説は暴力に屈服する話だ、ということ。少年たちは暴力で自然界の生物を捕まえ、脱走兵は兵隊に屈服し、少年たちは村人に屈服する。そして人間は疫病の暴力に抗えない。全員が何かに怯えており、それを和らげるかのように暴力的になっている。また、度々ある暴力的な描写とそれを仕方ないと感じている描写に戦中の血なまぐさい空気を感じる。

内容は暴力的だし全体的にグロテスクな雰囲気が漂っているのだが、生の活力に溢れた作品だった。

9月読んだ本

  • [ノンフィクション] ダークウェブ・アンダーグラウンド
  • [小説] 家族八景
  • [漫画] 海が走るエンドロール
  • [小説] 神様のパズル
  • [小説] 本日は、お日柄もよく
  • [小説] 火のないところに煙は
  • [漫画] 黄泉のツガイ
  • [漫画] メイドインアビス
  • [小説] 星々の舟
  • [小説] 花まんま

ダークウェブ・アンダーグラウンド / 木澤佐登志

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家族八景 / 筒井康隆

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神様のパズル / 機本伸司

話のテンポがよくない。全然話が進まない。キャラクターの魅力もあまりない。作者が物理に詳しいことだけは分かった。とはいえ登場人物のほとんどが物理に詳しくなくてもよいのでは?いくら物理学科とはいえ。

うーん、イマイチキャラクターが定まってないなあ。主人公に感情移入できない。中学時代とかなら割と楽しく読めたかな。

Amazonのレビューを見ると理系の研究談義にやたらと心惹かれている人が多い模様。自分はそこに刺さらなかったから楽しめなかったかな。ただ、これは作者の力量不足だけど続きの作品は面白い、ってレビューあるから気になる。

本日は、お日柄もよく / 原田マハ

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火のないところに煙は / 芦沢央

読み終わったら間違いなく榊桔平でググりたくなる。

ジワジワ怖いジャパニーズホラーって感じで良かった。完成度高い。

星々の舟 / 村山由佳

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花まんま / 朱川 湊人

第133回直木賞受賞作。

幸福と不幸を表裏一体のものとしてグロテスクに描いている。水彩で描いたホラーみたいな小説。

喪失を話の骨子にしている。描写も物語もよく面白かった。

感想

やっとメイドインアビスを読んだ。黄金郷の描写長くない?海が走るエンドロールは「始めるならいつからでも遅くない」という気持ちにさせてくれるいい漫画。1巻はとてもよかったけど2巻以降は1巻ほどのよさはなかった。

神様のパズルは辛そうに読んでるのが分かる感じのメモが残ってて少し笑った。

今月のザ・ベストはやはり家族八景。今月どころじゃなくて10年前に読んだ時も面白かったけど。

星々の舟 / 村山由佳

2003年、第129回直木賞

感想

歪んでバラバラになった家族を線で繋いでいくような話。星々の舟の星はそれぞれの家族を表し、舟は船に乗ってゆっくりと家族の間を渡っていく様子を表しているのだと思う。

近親相姦、母の死、父の記憶、不倫、劣等感、などを家族のそれぞれのメンバーにフォーカスしながら扱っているため全体的に重苦しい話だが読後感は悪くなかった。家族のわだかまりをほぐしていくように物語が進んでいっておりうまくまとまっている。

現代の話だけじゃなくて戦中の話しも書かれている。意欲的な作品。面白かった。