高校生のための経済学入門 / 小塩隆士

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読んでる時に書いた感想と内容の要約を読後ちょっとまとめたものの放流。

他の本の感想と比べて文量が多いことからこの分野への興味を感じる。

感想とまとめ

「何らかの制約の下で最適な行動を探す、これが経済学の発想です。」と冒頭にあるように、経済学は最適化問題と似ている。しかし現実の経済活動は複雑すぎてそのまま解析するのは難しい。だから純化して経済現象を一般化するというのが経済学の手法となる。また、個人単位の、月の収入以内で生活をしていく普通の家計のやりくりも経済学に含まれる。これを会社同士や国同士で石油を売買するなどのもっと大きなスケールで効率性を追求するというのが経済学が取り組む問題になる。

冒頭で「近ごろの若者は…」的な意見が散見される。「昔に比べると、大学に入学することはずいぶんやさしくなりました。」みたいに特に今の大学生にかなり不満を持っている様子。多分この人は優秀層と何の接点もない下層しか見えない層にいるんじゃないかな?というか、「最近の大学生は不真面目」という結論だけが欲しくて見たいものしか見えてないような印象。学生が不勤勉になっている事を言うなら学生だけを責めるのではなくその上の教育課程の言及は必須のはずなのだがそれもない。あと、大学生が勉強会しなくなった、というのはいつと比べているのかも不明。明治時代と比べてるのか?

市場原理は変動があっても需要と供給が一致する価格にバランスされる仕組みのこと。

消費者にお金がなくなって需要が大きく減ると企業もそれに合わせて価格を下げなければならず、これが社会全体に波及すると経済全体の物価水準が低下し、デフレという状態になる。

資源は欲しがっている人の元に自動的に分配される。これは企業間の競争で達成される。資源配分の効率性という点で市場メカニズムは有利。社会主義経済のような「みんな平等」な世界では効率的な資源配分はできない。つまり経済の仕組みは複雑で人間が全てを把握するのは不可能だから市場メカニズムの流れに任せるべき

市場メカニズムの企業同士の競争により、市民が自分自身の利益を追求することで社会全体が効率的に回るようになる。

市場に対して強制力を持つ上位の存在である政府の役割は市場メカニズムをうまく回すことと市場メカニズムで解決しない問題を解決すること。

企業が一番楽に需要と供給をコントロールするための手段が独占とカルテル。これらによって競争を機能させなくする。これを防ぐために公正取引員会という役所が独占禁止法を元に不公平な取引を取り締まる。ただ、現状独占状態の企業もこれから新規参入する企業と潜在的な競争をしていると言えるので、政府は市場への参入障壁を低くしたり外資企業の参入を認めたりすると競争が行われやすい状況になる。

政府が介入すべき問題には外部効果、公共財、情報の不完全性、費用逓減の4つがある。情報の不完全性について、例えば医療保険がある。医療保険を民間に任せて任意加入にすると不健康な人間しか加入しなくなり、1人あたりの保険料が高くなってしまう。これを防ぐために、政府が社会保険として医療保険の仕組みを作るべきである。

市場では解決できない問題に所得格差がある。市場で人々の能力が正しく評価されそれに応じた給与が支払われるようになるとどうしても格差が生じてしまうし、市場に任せたままではこの格差は広がる一方になる。ここで政府が高所得者から多く徴収し、所得の低かった人に生活保護などの形で再配分する。このようにして社会としての公平性が成り立っている。しかしここで、どの程度の公平性を政府が負わなければならないかという問題が生じる。この問題への対処には何を基準として社会全体が幸福であるかについての基準が必要になる。この基準は大きく2つであり、社会にどれだけ貧乏人がいても全体の所得の総額が高ければ高いほど幸福であるという考え(功利主義)と、所得の低い人の幸せが社会全体の幸せの度合いの尺度となる考えである。富の再配分と言われると脊髄反射共産主義を思い浮かべ日本とは違うことのような印象を受けてしまうが、よく考えたら生活保護とかは再配分だった。主義者にはならず効率性と実利によるバランスが大事。

実際、競争による効率性と分配による公平性の両立は不可能で、どちらをどれくらいのバランスで折り合わせれば最適であるかという問いに対する解答はない。結局社会は人間の群れなので「そういう風潮だよね」な感覚的な多数決で決まる。

社会が不況で企業が採用を絞ると労働需要が低くなる。しかし人間は仕事をしてお金を稼がないと生きていけないので需要は高いままの状態になってしまう。政府はこれを解決するために公共事業などで雇用機会を創出したり景気回復のため税率を下げ購買を推進したりする。このような政策は景気対策と呼ばれる。このようなバランスするのに時間がかかかる大きな問題に対して政府の役割を示すのがマクロ経済学である。

マクロ経済学ミクロ経済学の考えをベースにしたもので、具体的な問題に対するアプローチを考えるのに役立つ。

「景気が良くなる」状態とは、消費者の所得が増えてたくさんものを買い、企業がたくさんものを生産して売っている状態のこと。「所得が増える」「たくさん売れる」「たくさん生産する」の3つは密接に影響しあっており、これらは同じものを別の角度から見たものにすぎない。

実際に景気(経済)の大きさはGDPで測るため、GDP景気動向を調べる基本的な指標になる。景気は良い時と悪い時で循環するが、その基本的な原因需要と供給のバランスが崩れること。

インフレが毎年続くと予想される状況だと消費者が「今買わなければ値上がりする」と判断するために需要が高まり、実際に将来の値上がりが確実なものになってしまう。更にこれに伴って企業では従業員の賃上げ要求が起こりやすく、更に企業は価格を引き上げる。この悪循環をインフレスパイラルという。インフレが進むとお金で買えるものの数が少なくなるためお金の価値が下がる。日銀などの中央銀行は物価を安定させてインフレやデフレを防ぐための仕事をしている。

多くの税金を使って教育や公共事業などの行政サービスを充実させる政府を大きな政府、行政サービスの拡充を追求しない政府を小さな政府という。1980年以降、先進国で大きな政府の弊害が大きくなってきたため大きな政府は問題視されている。政府は企業と違って多少赤字が出てもすぐには潰れないので効率性を向上させる要因が少ない。大衆は行政サービスは維持運営に大きな負担が必要であることに目を向けず拡充を求める傾向にある。そして政治家もこれに大衆の意向に従って行政サービスの拡大を主張する。これが大衆迎合主義(ポピュリズム)であり、ポピュリズムが一般的になると財政が常に悪い状態になってしまう。ポピュリズムが発生する原因は行財政の複雑化にあって、サービスの享受とそのために発生する負担の関係性が見えなくなってしまっていることが原因。これによって大衆ウケのよい主張が幅を利かすことになる。特に大きな政府だとこの問題が顕著化しやすい。

大きな政府と小さな政府のバランスの最適解は無く、現実の働きから計算して悪いところを改善していくしか無い。

国債は政府の借金だが、国民にとっては資産となる。しかし国民が国債の将来性を危ぶんだ結果国債の買い手が付かったり国債を一気に売ったりすると国債の価値がなくなってしまう。これを財政破綻という。

民主主義は現在税金を納わめている世代の多数意見を反映するため、将来世代の意見を反映しない。だから将来世代の負担が重くなり続ける。これだと少子高齢化社会は下の世代の負担が増え続けていつか破綻してしまう。